「組織のなかで耐え難きを耐えながら周囲に迎合して生きていくよりは、儲けが少なくても自分の興味のあることをして生きていきたい。」そんな生き方が可能と思われる時代なんでしょう。IT技術を駆使すれば・・・。営業はSNSをうまく利用して・・・。
クラウド会計ソフトを使えば会計帳簿も簡単に作れるし・・・。気持は分かりますが、独立開業するまえに立ち止まって事業計画を練ってください。え?よく聞くお小言だねえ、と思った方も多いと思いますが、では質問。「事業計画って、どうやって作りますか?」
私なりの思考法を書く前に少し脱線。銀行取引を自動で会計帳簿に変換してくれるクラウド会計ソフトが流行しています。弊所でも使っています。
使ってみての感想ですが、手間暇の度合いは従来の会計ソフトに複式簿記で手入力するのと大差ありません。でも事業主の方々は《簡単に》帳簿がつけられると思っているようです。
クラウド会計ソフトを利用して独立開業した方々と税務顧問契約を結んで、お話しを進めていくと、帳簿が《簡単に》作れないことに気付いてくれるケースが多いです。詳細は省きます。ネット上では《効率化》を謳い文句に様々な広告宣伝がなされていますが、帳簿作成にしろ営業ツールにしろ、IT技術で簡単に効率化はできないと思います。
本題に戻りましょう。事業計画の作り方です。経営数値は、《売上》《原価》《固定費》の3つの指標から成ります。問題はどの指標から計画を立て始めるか?です。
新規創業と事業計画書
①事業計画の必要性
②《売上》《原価》《固定費》
専門的な定義は割愛して、ざっくりとした説明をします。《売上》は説明不要ですよね。《原価》は売上を獲得するために直接必要な犠牲です。商品販売をする事業であれば、その商品の仕入額が原価となります。製品販売している会社であれば、製品を製造するための材料が原価となります。
《固定費》は、事業を維持存続するために必要な費用で毎月の発生額がほぼ均一となるものです。販売管理費のほどんどが《固定費》となります。《売上》-《原価》=《粗利益》です。《粗利益》-《固定費》=《営業利益》です。これから創業しようと考えているあなたであれば、この3つの指標のどこから計画を立て始めますか?
独立開業を決断した方の多くが《売上》の予測から事業計画を立てます。これまでの勤務経験の延長線上で独立開業される方がほどんどだと思いますので、これまでの経験則に基づいて《売上》から計画を立て始めます。でも、この考え方はやめたほうがよいと思います。
あなたが勤務時代に営業成績No.1だったのは、あなた自身の能力が高かったからでしょうか?あなたが勤務時代に顧客満足度No.1を獲得できたのは、あなただけの努力の成果なのでしょうか?あなたが所属していた組織の力を、あなたが上手に使えたから、あるいはその組織の力とあなた自身がうまく調和したから、No.1の称号を得られたのではないでしょうか?
独立開業したら、気付かないままあなたに力を与えてくれた組織は、もうありません。だからこそ、《売上》の予測から事業計画を立ててはいけないと思います。狸の皮算用になってしまうのではないでしょうか?
③《固定費》から逆算して事業計画を立てましょう。
独立開業したら誰もあなたを守ってくれません。無人島に漂着したと考えてください。まずは事業を進めるうえで最低限必要な毎月の経費を列挙してください。事務所家賃は幾らですか?電話代・水道光熱費・消耗品費・接待交際費など毎月最低限必要な支払を列挙して金額を埋めてください。さらに生活費がいくら必要ですか?切り詰められる生活費はバッサリ切り捨ててください。
そうして積み上げた《生きていくために最低限必要な費用》が仮に月額35万円になったと仮定してください。《固定費》が毎月35万円なければ生きていけないのです。では35万円を手許に残すためには、どの程度の売上を獲得しなければなりませんか?
◎「喫茶店」で創業します。粗利益率4割で営業します。35万円でサバイバルするためには、35万円÷4割=87.5万円の売上が毎月必要です。客単価800円です。毎月1,093人の来店を誘導する必要が生じます。月に25日営業しますので、43人/日の来店を目標とします。
◎「パン屋」で創業します。粗利益率3割で営業します。35万円の固定費をまかなうには、35万円÷3割=116万円/月の売上が必要です。客単価は1,000円です。毎月1,160人の集客、20日営業するとして一日58人の顧客を確保する必要があります。
◎「味にうるさい激安定食屋」で創業します。平日ランチ500円で勝負します、激安ですから・・・・。粗利益率5%です、味にうるさいですから・・・・。35万円を手許に残すには35万円÷5%=700万円/月の売上が必要です。全員500円ランチを目的に来店すると仮定すると毎月14,000人の顧客を集める必要が生じます。
何しろ激安ですから、年中無休で営業して稼ぎます。一日あたり14,000人÷30日=466人のランチ客です。座席数は15です。ランチタイムに31回転します。頑張ります!!
《固定費》と《粗利益率》が決まれば、目標売上額は計算できます。そのほか、営業日数などの基礎数値が固まれば、日毎の目標売上高・目標来店客数も計算できます。《新規創業=サバイバル》と割り切れれば、地べたを這うような計画を立てることができます。売上目標などといった妄想から出発しないでください。で、皆さんなら、上記3つの創業計画のうち、どれを選択しますか?「味にうるさい激安定食屋」で創業しようとはゆめゆめ思わないでくださいね。