『賃上げ促進税制』が改正されています。

『賃上げ促進税制』とは?

『賃上げ促進税制』とは、従業員へ支給する給与の増加を促進させることを目的として法人税を減税する税制です。

「従業員へ支給する給与を増やしたら、法人税が減税となりますよ」

という税制を利用した給与増額の政策です。
令和6年4月1日以降開始する事業年度から、この『賃上げ促進税制』が改正されています。

改正の内容は?・・・5年間の繰越ができる!

簡単にこの税制のしくみを確認してみましょう。

1:前期と当期の従業員へ支給した給与が増えたら、増加した給与額に減税率を乗じた金額だけ法人税を減税する。
2:減税率は、【増加した給与の額】【従業員向けの教育訓練費を前期比10%増加】に応じて増加する。

といった仕組みです。

ただし、赤字だったり過去の繰越欠損金があるため、そもそも法人税の納税が発生しない企業の場合は、
減税できる法人税がないため、この税制が使えませんでした。

そこで・・・・今回の改正では、今年頑張って獲得したいわば「減税枠」を5年間使えるようにしました。

今年赤字で法人税の納税がないけれども、来年黒字だったら、今年獲得した「減税枠」を使えるよ!

といった改正です。事業者にとってはありがたい改正です。

適用条件を詳しく確認しよう

中小企業向けに限定した制度を説明します。

詳細は下記の中小企業庁パンプレットを参照してください。

●条件1
前期と当期に支給した従業員給与の増加割合に応じて法人税の減税率が変わる

●条件2
従業員向けの教育訓練費が前期比5%以上増加した場合は、法人税の減税率を10%上乗せする

●条件3
子育て支援・女性活躍促進に取り組む企業に対しては、法人税の減税率を5%上乗せする

結果として最大で前期と当期の従業員給与増加額に対して、45%もの減税率が適用されます。
ただしこの税制を適用する前に計算した法人税額の20%までしか減税はできないという上限規定はあります。

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具体的な数値で確認してみよう

例をあげてみます。

【前提】
・前期と当期の従業員給与が500万円増加しました。増加率は2%です。
・当期に従業員への教育訓練を充実したため、教育訓練費が前期比15%増加しました。
・課税所得(税引前利益)は300万円です。法人税の実効税率を25%と仮定します。

【計算】
・減税率:15%+5%=20%
・減税額:500万円×20%=100万円
・適用前の法人税額:300万円×25%=75万円
減税上限額:75万円×20%=15万円
・減税額:100万円>15万円 よって15万円が限度
・法人税納税額:75万円-15万円=60万円
・繰り越せる額:100万円-15万円=85万円

繰り返しますが、この制度を適用する前の法人税額の20%を上限として減税が認められます。
よって、給与の増加割合が顕著であっても、使えきれない控除枠が発生することが想定されます。
この余った枠を翌年以降5年間繰り越せるのです。


今年使えなくても5年間繰り越せます。

今回の改正の特筆すべき点は、今年獲得した「減税枠」を5年間使えるという点です。

下記の中小企業庁のパンフレットをご覧ください。

1【X年度】
 ●初年度に450万円の減税枠を獲得したが、この事業年度は赤字だったので使えない。
2【X+1年度】【X+2年度】
 ●翌事業年度と翌々事業年度も赤字だったので、450万円の減税枠は使えないが、繰り越せる。
3【X+3年度】
 ●3年目に黒字となり、法人税納税額が発生。ただし使える減税枠は300万円だった。使えなかった150万円は次期に繰り越せる。
4【X+4年度】【X+5年度】
 ●4年目と5年目が黒字だったら、繰り越した150万円の減税枠が使える。

重要なのは「従業員給与が増えて控除枠を獲得できたが、赤字だったので適用できない事業年度】において、控除枠を獲得できたことを証明する申告書を提出しておかなければならない点です。

つまり・・・・
「赤字だから、使えない制度だ」とあきらめずに、給与が増えたので減税枠を獲得できたことを、その赤字の事業年度において申告書を提出しておかなければならないのです。

この申告書を「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」と言います。

繰り返しますが、この申告書を赤字事業年度において提出しておかなければ、翌年以降に黒字となっても税額控除はできません。

せっかく獲得した減税枠という権利なので、申告忘れのないようにご注意ください。

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