節税が資金繰りを悪化させるのはなぜか?

【節税】と【資金繰り改善】は真逆の思考です

税金は利益に対して一定の割合で課税されます。したがって、利益が多ければ納税額は多くなります。金融機関から借りられる金額は、簡易キャッシュフローの5倍から10倍が限度です。簡易キャッシュフローとは【税引後利益+減価償却費】であらわされる数値です。簡単にいうと減価償却を無視した場合の当期利益です。したがって利益が多ければ借入可能額も多くなります。

まとめると次のようになります。

・節税したいならば、利益の少ない決算書が理想です。
・多額の資金調達をしたいならば、利益の多い決算書が理想です。


節税と資金調達は真逆の思考方法なのです。節税を選ぶなら資金調達を捨てることになります。資金調達を選ぶなら節税を断念しなければなりません。ただし、この両極端な選択肢のあいだには、無数のケースが想定できるでしょう。ちょっとだけ節税したい・・。去年よりもちょっと節税を抑えよう・・・。などです。こうした「ちょっとだけ」といった曖昧な領域があるのが節税思考の落とし穴なのです。

具体的な数値で検証してみましょう

節税が資金繰りを悪化させる事例を具体的に見てみましょう。
税引前利益が100万円の会社を想定します。法人税率を25%と仮定します。節税策を講じないと、この会社の納税額は100万円×25%=25万円です。したがってキャッシュアウトする額は25万円です。

ではこの会社が納税を0円にしたいと強く望んだため、税引前利益100万円を0円にする手段を実行したとします。キャッシュアウトする額はいくらでしょうか?もちろん100万円です。100万円のキャッシュアウトを伴わなければ利益を0円にすることは原則としてできません。

つまり、節税しないと25万円のキャッシュアウトで済んだのに、節税すると100万円のキャッシュアウトをしなければならないのです。どちらが企業にとって有益であるかは一目瞭然です。節税をしないで、差額の75万円を法人の内部留保に積み立てるのが、経営の観点からは有益な選択だと思います。もちろん税引後利益も節税をしないほうが良くなるので、銀行からの借入可能額は多くなります。

それでも税金を払いたくないという強い志向がある場合には、私から何もいうことはありません。ここから先は趣味嗜好の問題だと思いますので。

節税パターン・・必ずしもすべての節税が悪とは限りません

節税にはいくつかの類型があります。次にあげる2と3の節税策は資金繰りの観点からも有益であることが多々あります。会社の実情に合わせて、適切な選択をしてください。ただし、1の浪費型の節税はお勧めしません。
決算前に消耗品や備品をまとめて購入するパターンの節税策。多くの場合、いらないものまで勢いに任せて購入してしまいます。なかには高額固定資産を購入して支払対価の全額が経費処理できると思い込んでいる方もいます。取得価額30万円以上の固定資産は減価償却費として法定の期間で分割して費用化されますので注意してください。

賢い経営者は当期末に来期の投資計画を立てます。設備投資や消耗品の購入予算などを立てて、翌期に予算消化を図ります。もちろん翌期末に予算があまったからといって事業年度内に消化するなどといったお役所の慣行を踏襲しません。予算があまったら使いません。

予算が余ったら使い切ろうとするのは、役所くらいですよ。賢い民間経営者はそうした選択をしません。

生命保険や倒産防止共済を活用した節税策のことを投資繰延型と呼びます。倒産防止共済は年間240万円までの掛金の支払額が法人の経費になります。掛金は最大800万円まで積み立てることができ、解約時は解約金の全額が法人の収入となります。
法人税率を25%と仮定します。毎年240万円の掛金を積み立てることで、毎年60万円の税金を減らすことができます。数年かけて800万円を積み立てる場合は、合計で約200万円が節税できます。共済への先行投資により最大200万円の節税が可能なのです。

ただし、共済を解約した場合、解約金の全額800万円が法人の収入になります。つまり解約時は理論上約200万円の納税が発生することになります。これが繰延(先送り)と言われるゆえんです。数年かけて800万円をつみたてると合計で約200万円の節税が可能です。しかし解約すると約200万円の納税負担が生じます。差引のメリットはゼロになってしまいます。
よって解約時に経費を立てるような事業計画が必要となります。設備投資の予定を立てる等の事業計画を事前に練る必要があります。逆に言えば、将来の事業計画がしっかりしていれば、必要な資金は共済を利用して積み立てることができるということです。賢い経営者は事業計画をしっかり立てます(もちろん計画通り経営が進むとは限りませんが)。

国の方針として減税策を設けていることがあります。最近では「所得拡大促進税制」が有名です。従業員へ支給する給与額が前期より一定割合多くなると、多くなった給与支給額に対して一定率の法人税を減税するという制度です。この制度は、国民の給与所得を増やして、消費を喚起して経済を好転させようという国家の政策的意思の表れです。企業に対して法人税の減税を約束することで個人の所得を増やそうという目論見です。

こうした政策的減税は積極的に利用すべきです。ただし、もともと納税できる企業でなければ政策的減税の恩恵に与ることはできません。税額控除という制度は、納税が発生する事業体に対して一定額を減額する制度です。そもそも納税が発生しない赤字企業は利用できないのです。
したがって赤字体質の法人は、利益を出せる企業体質を作り上げることが先決です。今後も政策的減税は新しく発案されていくでしょうから、情報収集は抜かりなく行ってください。